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大阪地方裁判所 平成元年(行ウ)54号 判決

大阪府東大阪市荒本北二〇五番地

原告

日本機電株式会社

右代表者代表取締役

児玉健一

右訴訟代理人弁護士

深井潔

大阪府東大阪市永和二丁目三番八号

被告

東大阪税務署長 粕淵重治郎

右訴訟代理人弁護士

上原健嗣

右指定代理人

川崎将

同右

森並勇

同右

橋本稔

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、原告に対し、昭和六二年六月三〇日付けで、原告の昭和六〇年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税についてした更正のうち、所得金額二億八四九一万三九五〇円、税額一億一八一四万二七〇〇円を超える部分および過少申告加算税賦課決定を取り消す。

2  被告が、原告に対し、昭和六二年六月三〇日付けで、原告の昭和六一年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税についてした更正(平成元年六月七日付け裁決による一部取消後のもの)のうち、所得金額三億八九七一万一四一三円、税額一億六四八七万三七〇〇円を超える部分および過少申告加算税賦課決定(平成元年六月七日付け裁決による一部取消後のもの)を取り消す。

3  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同趣旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、建設用資材の製造販売を業とする株式会社である。

2(一)  原告は、昭和六〇年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「昭和六〇年一二月期」という。)の法人税につき別表1の「確定申告」欄記載の内容で確定申告をした。

(二)  しかるに、被告は、原告に対し、昭和六二年六月三〇日付けで、昭和六〇年一二月期の法人税につき同表の「更正および賦課決定」欄記載のとおり、所得金額を二億八七九一万三九五〇円、法人税額を一億一九四七万九四〇〇円とする更正(以下「本件更正(1)」という。)をし、同時に六万六五〇〇円の過少申告加算税の賦課決定(以下「本件賦課決定(1)という。)をした。

3(一)  原告は、昭和六一年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「昭和六一年一二月期」という。)の法人税につき別表2の「確定申告」欄記載の内容で確定申告をした。

(二)  しかるに、被告は、原告に対し、昭和六二年六月三〇日付けで、昭和六一年一二月期の法人税につき同表の「更正および賦課決定」欄記載のとおり、所得金額を三億九七九八万四三〇〇円、法人税額を一億六八四九万四三〇〇円とする更正(以下「本件更正(2)」という。)をし、同時に一八万一〇〇〇円の過少申告加算税の賦課決定(以下「本件賦課決定(2)」という。)をした。

4  本件各処分に対する審査請求の内容および結果は、別表1、2の「審査請求」「裁決」欄記載のとおりである(なお、本件更正(2)および本件賦課決定(2)は、別表2の「裁決」欄記載のとおり一部取り消された。)。

5  しかし、本件更正(1)(2)は、その基礎になった税務調査が次の理由により違法であるから、取り消されるべきである。

(一) 税務調査の実施

(1) 被告の部下である調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)は、昭和六二年五月一五日、一九日、二〇日、三〇日、同年六月一日と六回にわたり原告事務所に臨場し、税務調査を行った。

(2) 本件更正(1)(2)は、右税務調査(以下「本件税務調査」という。)の結果に基づくものである。

(二) 本件税務調査の違法性

(1) 本件税務調査は、正しい申告がされているかどうかを確認するための定期的な調査であるとして実施されたが、原告は、青色申告法人であるから、右のような理由を以て原告に対する税務調査について客観的な必要性があったとは言えない。

(2) 本件税務調査においては、原告に対して事前通知はあったが、原告の税理士に対し事前通知がなされていない。したがって、本件税務調査は、税理士法三四条に違反する。

(3) 本件税務調査においては原告に対し調査の具体的理由の告知がなかった。質問検査権は、確定申告によって確定した税額を変更する更正という行政処分を発動するための手段であるから、原告のような青色申告法人に対する調査においては、法律上、当然に具体的理由の告知が要求されていると言うべきである。しかるに、調査担当職員は、原告が理由の開示を求めたにもかかわらず、これに応じなかったものであって、その違法性は大きい。

(4) 調査担当職員は、税務調査の目的を逸脱し、原告に対し、株主名簿、定款、登記簿謄本綴り、株主総会議事録、取締役会議事録、昭和六〇年度当座照合表、稟議書綴りの提出を求め、違法な見込み調査、手探り調査を行った。

(5) 反面調査は、取引先の信用を損なうことに直結するので、これを行うには本人調査と比較してより慎重な配慮が要求される。したがって、納税者本人に対して調査を行っても実態が把握できなかった場合や、納税者本人が調査に協力せず帳簿書類等を見せない場合において、納税者本人に対し、反面調査の必要な理由を示し、また、弁明の機会を与えた後、はじめて、許容されるものである。しかるに、調査担当職員は、原告が帳簿書類等を見せて調査に協力し、反面調査の必要性がないにもかかわらず、理由の開示をせず、また、弁明の機会を付与しないで、原告の取引銀行である住友銀行大阪支店において反面調査を行った。しかも、関連性も必要性もない原告代表者個人の預金についてまで調査をした。このような反面調査は、公権力の行使に名を借りたプライバシーの侵害に当たる。したがって、反面調査が税務調査を担当する当該職員の合理的な選択に委ねられているという見解を採ったとしても、右反面調査は「合理的な選択」の範囲を逸脱した違法なものである。

(6) 昭和六二年五月末日ころ、原告が調査担当職員に対して違法な反面調査を行ったことについて厳重に抗議したところ、調査担当職員は調査の行き過ぎを認め、本件税務調査を中止する旨回答した。そこで、原告は、それ以上の抗議をしなかったのであるが、被告は、その後、原告に何らの通知・連絡をせず、本件各処分をした。したがって、本件各処分は、原告の調査中止との期待に乗じて原告の弁明、修正申告の機会を奪ってされたものであって、信義則に反し違法である。

(7) 調査担当職員は、六月一日に臨場した際、翌日の一〇時に原告代表者が税務署に出頭すべき旨の指示をした。これは、法人税法一五三条によって認められていない違法行為であるから、この指示に反して原告代表者が出頭しなかった場合には、調査担当職員は、原告事務所に臨場して、原告に対し、問題事項の指摘、説明をする必要があった。しかるに、被告は、原告から弁明の機会および税理士に相談する機会を奪った上、調査不十分な状態で、本件各処分を行った。

(8) 以上のように、本件税務調査は、社会通念上相当と認められる限度を超え、権利の濫用に当たる。したがって、本件調査手続には重大な違法があることになるから、これに基づいてされた本件各処分には、これを取り消すべき違法がある。

6(一)  本件更正(2)の通知書には、別表3記載の会議費および雑費(以下(「本件会議費等」という。)に関する更正の理由として、「交際費等の損金不算入額六六九、九五六円との標題の下に、「貴社が法人税確定申告書に添付された交際費等の損金不算入に関する明細書の支出交際費等の額に、次の金額を加算して損金不算入額を計算すると、さらに六六九、九五六円が損金不算入となります。」と記載され、かつ、科目、経理処理年月日、金額、支出先、支出の内容(関係先接待費用、土産代費用、会議後の宴会費用の区別)について一覧表が記載されていた。

(二)  しかし、右の理由によっては、本件会議費がいかなる根拠、基準により交際費とされるに至ったか全く不明であり、恣意的に選択したものと言わざるを得ない。

(三)  したがって、前記の記載では、法人税法一三〇条二項の要求する理由の附記があったとは言えないから、本件更正(2)および本件賦課決定(2)については、本件会議費等に関する限度で取り消されるべきである。

7(一)  本件更正(1)は、原告が確定申告に当たり、損金額に算入した三〇〇万円の貸倒れ金を損金の額に算入しなかったことにより昭和六〇年一二月期の所得金額の認定を誤った点において違法であり、これを前提としてされた本件賦課決定(1)も違法である。

(二)  本件更正(2)は、原告が確定申告に当たり損金の額に算入した八〇〇万円の情報提供料等を損金の額に算入せず、また、本件会議費等が租税特別措置法(以下「措置法」という。)六二条三項の交際費等(以下「交際費等という。)に当たり、かつ、その全額が同条一項による交際費等の損金算入限度額を超えるとして、これを損金の額に算入しなかったことにより所得金額の認定を誤った点において違法であり、これを前提としてされた本件賦課決定(2)も違法である。

8  よって、原告は、本件処分の取消を求める。

二  請求の原因に対する被告の認否

1  請求の原因1ないし4の事実は認める。

2  同5は、本件各処分が違法であることを争う。

(一) 同5(一)の事実は認める。

(二) 同5(二)は争う。

(1) 同5(二)(1)(3)について

本件税務調査は、正しい申告がされているかどうかを確認するための定期的な調査であり、客観的な必要性があった。また、調査担当職員は、本件税務調査において原告に対し右理由を告知した。

(2) 同5(二)(4)について

調査担当職員は、原告の確定申告の正当性を調査する前提として、原告の概況を知る目的で、必要な株主名簿その他の書類を要求したものである。

(3) 同5(二)(5)について

反面調査については、納税者の事前の承諾を要するものではなく、また、事前の通知および調査理由の告知も要件とはされていないのであって、いずれも、当該職員の合理的な選択に委ねられている。本件において、調査担当職員は、原告の決済状況を確認するために銀行調査をする必要があると考えて反面調査を行ったのである。

(4) 同5(二)(6)について

調査担当職員が調査の行き過ぎを認め、本件税務調査を中止する旨回答したことはない。調査担当職員が問題点について原告に説明し、原告の納得できない点について調査担当職員から説明をする旨の申出をしたにもかかわらず、原告がその申出に応じなかったので、被告は、やむをえず本件各処分を行ったものである。

(5) 同5(二)(7)について

調査担当職員は、五月二〇日、同月二六日の二度にわたり、、原告に対し調査結果に基づき問題点を指摘した。原告は、調査担当職員に対して、問題点に関する意見聴取の期日を五月三〇日と希望しながら、当日、意見聴取に応じず、六月一日の臨場に際しても同様であった。そこで、調査担当職員は、再度、臨場しても無意味であると考え、原告代表者が税務署へ出頭するよう要請したものである。

(6) 同5(二)(8)について

税務調査の手続は、課税庁が、課税要件の内容をなす具体的事実の存否を調査するための手続に過ぎず、調査手続自体が課税処分の要件となることはないと言うべきである。また、更正処分取消訴訟は、客観的な所得の有無を争う訴訟と解すべきであるから、違法な手続によって収集した資料に基づく更正処分であっても、その違法が極めて重大である場合を除き、客観的な所得に合致する以上、取り消すべき違法はないと言うべきである。

3(一)  同6(一)の事実は認める。

(二)  同6(二)(三)は争う。

本件更正(1)の通知書には、交際費等の損金不算入額に係る更正の理由として、交際費等に振り替えるべき支出の勘定科目、経理処理年月日、金額、支出先および支出内容が記載され、支出の特定に欠ける点はないので、更正処分の判断根拠の骨子は十分に明らかにされているので、右附記理由は、処分庁の判断の慎重および合理性を担保するとともに、相手方に不服申立ての便宜を付与するという理由附記制度の目的に反することはない。

4  同7、8は争う。

三  被告の主張

1  本件更正(1)および本件賦課決定(1)について

(一) 原告は、昭和六〇年四月二七日、香港のサンキンリーエンジニアリング社(以下「訴外会社」という。)に対し、三〇〇万円の現金を交付し、同日、これを立替金として処理した上、昭和六〇年一二月期の法人税の確定申告に当たり、これを支払手数料として損金の額に算入した。

(二) しかし、原告と訴外会社との間には、右のような手数料支払の合意はなかったから、右金員は、手数料として損金の額に算入することができない。

(三) 原告は昭和六〇年一二月期には法人税法二条一〇号の同族会社であり、原告の右事業年度の課税留保金額およびその算定の基礎となるべき事項は、別表4記載1のとおりである。

(四) そうすると、昭和六〇年一二月期の原告の所得金額は、別表5記載のとおり二億八七九一万三九五〇円となる。

(五) したがって、本件更正(1)及びこれを前提としてされた本件賦課決定(1)は、いずれも適法である。

2  本件更正(2)及び本件賦課決定(2)について

(一)(1) 原告は、昭和六一年九月二五日、林田茂則(以下「林田」という。)に対し八〇〇万円を交付し、同日、これを仮払金として処理し、昭和六一年度一二月期の法人税の確定申告に当たり、これを林田に対する販売手数料として損金の額に算入した。

(2) しかし、右金員は、対価性のないものであり、仮に情報提供料等の名目で交付されたものであっても交際費等に当たる。

(二)(1) 原告は、昭和六一年一二月期の法人税の確定申告に当たり、本件会議費等を支出したとして、これらを損金の額に算入した。

(2)〈1〉 しかし、別表3記載〈1〉ないし〈6〉ないし〈9〉ないし〈12〉の各支出は、同表の「支出内容等」蘭に記載の各事業関係者と原告代表者との飲食費用であり、これらの支出先はいずれも飲酒を主体とする又は飲酒を伴う料理店等であって、一人当たりの飲食単価も一万円前後になる。

〈2〉 また、同表記載〈7〉の支出は、取引先に対する手土産代として、菓子等の購入代金の支払に充てられたものである。

〈3〉 さらに、同表記載〈8〉の支出は、会議後開催された従業員の宴会の費用に充てられたものである。

〈4〉 したがって、本件会議費等はいずれも交際費等に当たる。

(三) 右販売手数料及び本件会議費等は、その全額が措置法六二条一項により交際費等として損金の額に算入すべき金額の範囲を超えている。

(四) 原告は、昭和六一年一二月期には法人税法二条一〇号の同族会社であり、原告の昭和六一年一二月期の課税留保金額及びその算定の基礎となるべき事項は別表4記載2のとおりである。

(五) そうすると、原告の昭和六一年一二月期の所得金額は、別表5記載のとおり三億九七九八万五三六九円となる。

(六) したがって、本件更正(2)及びこれを前提としてされた本件賦課決定(2)は、いずれも適法である。

四  被告の主張に対する原告の認否及び反論

1  被告の主張1について

(一) (一)の事実は認める。

(二) (二)の事実は認める。三〇〇万円は訴外会社に対する貸付金である。訴外会社は、香港の会社であり、原告が度々催告したにもかかわらず右貸付金の返済をせず、昭和六〇年末には連絡をとることも困難な状況にあった。したがって、右貸付金は、法人税法基本通達九―六―二(回収不能の貸金等の貸倒れ)の貸倒れに該当するので、損金の額に算入すべきである。

2  同2について

(一)(1) (一)(1)の事実は認める。八〇〇万円は、原告が提起していた訴訟に関連して林田から情報の提供を受け、また、林田から原告の商圏の拡大について協力を受けるために支払ったものである。

(2) (一)(2)は争う。右金員は措置法関係通達六二(1)―七の二(情報提供料等と交際費等との区分)の情報提供料等に当たり、交際費等に該当しないので、損金の額に算入すべきである。

(二)(1) (二)(1)の事実は認める。

(2)〈1〉 (二)(2)〈1〉の事実は認める。〈1〉ないし〈6〉ないし〈9〉ないし〈12〉の各支出は、関係先との商談及び打ち合わせに際して支出された飲食費であって、措置法施行令三八条の二第二号の「会議に関連して、茶菓、弁当その他これらに類する飲食物を供与するために通常要する費用」に当たる。

〈2〉 (二)(2)〈2〉の事実は否認する。〈7〉の支出は、顧客からのクレーム処理等のために持参するタオル等の少額物品の購入費であって措置法施行令三八条の二第一号の「カレンダー、手帳、扇子、うちわ、手ぬぐいその他これらに類する物品を贈与するために通常要する費用」に当たる。

〈3〉 (二)(2)〈3〉の事実は認める。しかし、〈8〉の支出は従業員の慰労を目的とする費用であって、措置法六二条三項の「専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用」に当たる。

〈4〉 (二)(2)〈4〉は争う。本件会議費等は、いずれも交際費には当たらない。

第三証拠関係

本件記録中の書証目録及び証人等目録と同じであるから、これを引用する。

理由

一  請求の原因1ないし4の事実は当事者間に争いはない。

二  次に請求の原因5(税務調査の違法)について判断する。

1  同5(一)の事実は当事者間に争いはない。

ところで、課税処分は、税法で定められた課税要件を充足する具体的事実の存在によって既に発生した納税義務について、その課税標準及び税額を更に明確に確定する性質を有する行政処分である。したがって、課税庁は、本来、課税標準及び法定の税率によって自動的に算出される税額どおりの課税処分をしなければならないのであって、課税処分は課税庁において裁量を働かせてはならない性質のものである。したがって、訴訟において課税処分の適否が問題となるときは、課税要件を充足する具体的事実の存否を改めて証拠により確定することにより、法の本来予定している納税義務が客観的に確定することになるから、裁量処分のように、裁判所の審査が行政庁の裁量に属する事項に及ばないため、処分に至る手続自体の適正を確保することによって処分の内容の適正を確保するといった必要は少ないと言うべきである。

そして国税通則法二四条、法人税法一五三条に規定されている税務調査の手続は、課税庁が課税要件の内容をなす具体的事実の存否を調査するための手続に過ぎないから、その適法性自体が課税処分の要件となることはないと言うべきである。そうすると、税務調査の手続が違法であっても、これによって損害を被った場合に国家賠償を請求できることがあるのは別として、調査手続自体の違法を理由として、課税処分の取消を求めることはできないと言うべきである。

したがって、本件税務調査自体の違法は本件各処分の取消し事由とはならないから、請求の原因5(二)の主張は、その余の点につき判断するまでもなく失当と言うべきである。

2  なお、原告は、本件各処分は被告が原告の調査中止との期待に乗じて原告から弁明及び修正申告の機会を奪って行ったものであるから、信義則に反し違法である旨主張するが、成立に争いのない乙第七号証及び証人佐竹秀美の証言によると、調査担当職員は、昭和六二年五月二〇日、二六日の二回にわたり原告に対し、調査結果に基づき問題点を指摘したこと、原告は、調査担当職員に対して、問題点につき自己の意見を述べる期日を五月三〇日とするよう求めながら、当日、臨場した調査担当職員に対して積極的に意見を述べず、また説明も求めなかったこと、調査担当職員が六月一日に臨場した際も同様であったこと、そこで、調査担当職員は、原告代表者が税務署に出頭して意見を述べるよう求めたこと、しかし、原告代表者は、電話によりこれが違法な出頭命令であるとして抗議したのみで、問題点について意見を述べず、説明も求めなかったこと、以上の諸事実を認めることができ(右認定に反する証人佐藤巖の証言部分は、にわかに措信しがたい。)、これらの事実によると、被告において、原告から弁明及び修正申告の機会を奪った上で本件各処分を行ったとすることはできない。したがって、本件各処分が信義則に反し違法であるとの原告の主張は、その余の点につき判断するまでもなく失当である。

三  そこで、進んで、同6(理由附記の不備)について判断する。

1  本件更正(1)の通知書に、本件会議費等に関する更正の理由として、「交際費等の損金不算入額六六九、九五六円」との標題の下に、「貴社が法人税確定申告書に添付された交際費等の損金不算入に関する明細書の支出交際費等の額に、次の金額を加算して損金不算入額を計算すると、さらに六六九、九五六円が損金不算入となります。」と記載され、さらに科目、経理処理年月日、金額、支出先、支出の内容(関係先接待費用、土産代費用、会議後の宴会費用の区別)について一覧表が記載されていたことは、当事者間に争いはない。

2  そうすると、右理由の記載から、本件会議費等は十分に特定されており、また、同項に基づき交際費等の例外を定める措置法施行令三八条の二各号の費用にも当たらず、しかも、その全額が交際費等の損金算入限度額を超えるとの理由で、所得金額の更正がされたものと理解することができるから、本件附記理由は、処分庁の判断の慎重及び合理性を担保するとともに、相手方に不服申立ての便宜を付与するという理由附記制度の目的に反するものではなく、なんら不備はないと言うべきである(なお、理由は、右のような理由附記制度の目的を達するために必要な限度で記載すれば足りるから、右に判示した程度にその骨子を記載すれば足りるのであって、交際費等の例外に当たるかどうかの判断基準とか本件会議費等がその基準に合致しない根拠といった詳細についてまで記載する必要はない。)

四  次に、本件更正(1)及び本件賦課決定(1)の適法性について判断する。

1  原告が、昭和六〇年四月二七日、訴外会社に対し三〇〇万円の現金を交付し、同日、これを立替金として処理した上、昭和六〇年一二月期の法人税の確定申告に当たり、これを支払手数料として損金の額に算入したこと、しかし、原告と訴外会社との間に右のような手数料支払の合意がなかったことは、当事者間に争いはない。

ところで、原告は、右金員は訴外会社に対する貸付金であるところ、訴外会社が香港の法人であり、かつ、連絡不能な状態であったため、昭和六〇年末には回収不能の状態にあったので、右金員は法人税法基本通達九―六―二の貸倒れに当たると主張する。しかし、原本の存在及び成立に争いのない乙第二号証と弁論の全趣旨によると、右金員は訴外会社に対し貸付金として交付されたものであることが認められるが、昭和六〇年末日において、訴外会社の資産状況、支払能力からみて、右貸付金の回収が不能な状態になっていたことを認めるに足りる証拠はない。

したがって、右貸付金をもって、法人税法基本通達9―6―2の貸倒れに当たるとすることはできない。

2  原告が、昭和六〇年一二月期において法人税法二条一〇号の同族会社であったこと原告の事業年度の課税留保金額の算定の根拠となるべき事項が別表4記載1のとおりであることについては、原告において明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。

3  そうすると、原告の昭和六〇年一二月期の所得の金額は、別表5記載のとおり二億八七九一万三九五〇円となるから、本件更正(1)は適法であり、また、これを前提としてされた本件賦課決定(1)も適法ということになる。

五  次に、本件更正(2)及び本件賦課決定(2)の適法性について判断する。

1(一)  原告が、昭和六一年九月二五日、林田に対し八〇〇万円を交付し、同日、これを仮払金として処理し、昭和六一年度一二月期の法人税の確定申告に当たり、これを林田に対する販売手数料として損金の額に算入したことは、当事者間に争いはない。

ところで、原告は、右金員は、原告が提起していた訴訟に関連して林田から情報の提供を受け、また、林田から原告の商圏の拡大について協力を受けるために支払ったものである旨主張する。しかし、原本の存在及び成立に争いのない乙第四号証と弁論の全趣旨によると、林田は原告に対し貸付金として右金員の交付を請求したことが認められ、情報提供契約の成立、提供すべき情報の具体的内容、実際に提供された情報の内容、右金員の情報提供に対する対価としての相当性について具体的事実の主張立証がない。したがって、仮に右金員が貸付金でなく、情報提供料の名目で交付されたものであったとしても、これをもって措置法関係通達六二―七の二(情報提供料と交際費等との区分)の情報提供料に当たるとすることはできない。

(二)(1)  原告が昭和六一年一二月期の法人税の確定申告に当たり、本件会議費等を支出したとして、これらを損金の額に算入したことは、当事者間に争いはない。

(2)  また、別表3記載〈1〉ないし〈6〉及び〈9〉ないし〈12〉の各支出が、同表の「支出内容等」欄記載の各事業関係者と原告代表者との飲食費用であり、これらの支出先はいずれも飲酒を主体とする又は飲酒を伴う料理店であって、一人当たりの飲食単価も一万円前後になることについても当事者間に争いはない。そうすると、右各支出は、会議場として通常使用されることのない場所おける飲食費に関するものであり、また、茶菓、弁当その他これらに類する飲食物を供与するために要する費用として高額であると言うべきであって、これをもって、措置法施行令三八条の二第二号の費用に当たるとすることはできない。

(3)  また、成立に争いのない乙第六号証及び証人佐竹秀美によると、同表〈7〉の支出金は取引先に対する土産用の菓子の購入費に充てられたことが認められるので、右支出金は、公告宣伝的効果を意図して多数の者に配布する物品の購入費用ではなく、措置法施行令三八条の二第一号の費用には当たらないことになる。(措置法関係通達六二(1)―一五参照)。

(4)  さらに、原本の存在及び成立に争いのない乙第五証によると、〈8〉の支出金は、会議後に開催された従業員二七名の宴会の費用(一人当たり約九五〇〇円)に充てられたことが認められるので、措置法施行令三八条の二第二号の費用には当たらず(措置法関係通達六二(1)―一六参照)、仮に、右宴会が従業員の慰労の趣旨で開催されたものであっても、措置法六二条三項の「専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用」にも当たらないことになる。

(5)  したがって、本件会議費等は、いずれも交際費等に当たることになる。

2  右販売手数料及び本件会議費等の全額が措置法六二条一項により交際費として損金の額に算入すべき金額の範囲を超えていること、原告が、昭和六一年一二月期に法人税法二条一〇号の同族会社であったこと、原告の昭和六一年一二月期の課税留保金額の算定の基礎となるべき事項が、別表4記載2のとおりであることについては、原告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

3  そうすると、原告の昭和六一年一二月期の所得金額は、別表5記載のとおり三億九七九八万五三六九円となるから、本件更正(2)及びこれを前提としてされた本件賦課決定(2)は、いずれも適法ということになる。

六  よって、原告の請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田畑豊 裁判官 岡久幸治 裁判官 西田隆裕)

別表1

課税の経緯

自昭和57年1月1日

至昭和57年12月31日

〈省略〉

別表2

課税の経緯

自昭和58年1月1日

至昭和58年12月31日

〈省略〉

別表3

〈省略〉

別表4

課税留保金額の計算

1 昭和60年12月期

〈省略〉

2 昭和61年12月期

〈省略〉

別表5

原告の係争各事業年度分の所得金額

〈省略〉

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